学ぶ方向を決める

社会人が学習時間をどこから捻出するか|時間の棚卸しと削る順番

学習時間が取れないという状態は、足りない量を数えていないことがほとんどです。1週間の時間を固定・変動・空白に分けて在庫を測り、削る対象を反動の小ささで順位づけし、週に出せる時間から学ぶ範囲を決める手順を扱います。

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編集 学び直し実務室編集部

時計と予定表を使って学習時間を組み直す社会人
学習計画と複数の進路を机上で整理する編集イラスト

この記事でやること

こんな人に向けています
学び直しを始めたいが、学習に充てる時間を確保できずにいる社会人
読み終えたときの状態
週あたりに出せる学習時間を数字で把握し、削る対象を自分で決められる状態

平日の帰宅は21時を回り、夕食と片づけを終えて座るのが22時半。そこから教材を開くつもりでいて、気づくと日付が変わっている。土曜は家の用事、日曜は翌週の準備。そういう週が何回か続いたところで講座の申し込み画面を開くと、「1週間に確保できる学習時間」を選ぶ欄が出てきます。

ところが、この欄で手が止まります。週5時間なのか10時間なのか、当てずっぽう以外の答えが出てこないからです。「時間がない」という言い方は何度もしてきたのに、何時間足りないのかは一度も数えていません。

数えていない状態では、手当ての選びようがありません。足りないのが週2時間なら、移す先を一つ見つければ片づきます。週10時間なら、生活の組み方を変えるか、学ぶ範囲を狭めるかという別の判断になります。同じ「時間がない」という言葉でも、必要な対応はまったく違います。

ここでは、時間を増やす技術ではなく、いま持っている時間を数え、どこから移すかを決める手順を扱います。1回分の学習をどの大きさに割るか、中断からどう戻るかは学習が途中で止まる理由と続く計画の作り方の担当なので、この記事では触れません。

「時間がない」は量の問題ではなく、在庫を数えていない状態です

学習時間の悩みは、たいてい「忙しくて時間が取れない」という形で出てきます。この言い方には、必要量も手持ち量も入っていません。不足量が分からないまま対策を選ぶので、選ばれる手はほぼ決まって「早起きする」になります。

早起きが最初に出てくるのは、他人の予定と競合しにくい時間帯だからです。ただし、朝に足すという方法は、夜の側を短くしない限り睡眠から借りているだけです。借りた分は数週間で返済を求められ、起きられない日が増えて元に戻ります。時間を作れた気がしたのに続かなかった、という経過の多くはここから来ています。

先にやるのは、足りない量を数字にすることです。数字にすると、対策の候補が変わります。週2時間の不足なら、惰性で見ている時間を平日に2回止めるだけで足ります。週10時間の不足に同じ手を打っても届きません。届かない手を打ち続けると、やがて努力の量の問題だと感じるようになり、そこで学習そのものを畳むことになります。

必要量のほうは、学ぶ対象から決まります。教材や講座が示す標準時間は、想定している前提知識や作業環境が自分と同じとは限りません。目安として置くのは構いませんが、必要量として確定させる前に、最初の1週間ぶんを実際にやって自分の速度で置き直してください。判断に使うのは、次に説明する実測値のほうです。

1週間の時間を、固定・変動・空白の3つに分けて数えます

在庫を測る方法は、1週間の記録です。学習の記録ではなく、何に時間を使ったかだけを書きます。15分単位で十分ですし、その場で書けないなら寝る前にまとめて書いても構いません。正確さより、平日と休日の両方が1周そろっていることのほうが効きます。

7日分がそろったら、次の3つに仕分けます。

固定 変動 空白
入るもの 勤務、通勤、睡眠、食事、子どもの送迎 家事、買い物、連絡の返信、動画や短い記事を見ている時間 どの予定も入っていない時間帯
動かせるか 自分だけでは動かせない。職場か家族の合意が要る 頻度・方法・担当を変えれば動く すでに空いている
削ったときに起きること 仕事か生活のどちらかが回らなくなる 手間が別の日か別の人に移る 何も起きない。ただし総量は思ったより小さい
学習に使えるか 通勤など一部は併用できる 移した先の時間帯が毎週ずれやすい 位置が固定されていれば使える

仕分けてみると、空白の合計は想像より小さく、変動の合計は想像より大きくなります。つまり、これから作る学習時間の大半は、空いている時間ではなく変動から移すことになります。「空き時間を活用する」という発想では足りない、というのが記録から出てくる最初の結論です。

この実測値は、講座の申し込み欄に書く数字の根拠にもなります。学習時間を費用として計算に入れる考え方はスクールの費用対効果はどう比較すればよいかで扱っていますが、その計算にも標準時間ではなく実測値を入れてください。

空白は合計ではなく、毎週同じ位置に現れるかどうかで見ます

合計で週7時間の空白があっても、それが毎週違う場所に現れるなら学習には使えません。使えるのは、何曜日の何時ごろかを特定できる枠だけです。

理由は2つあります。位置が決まっていない枠は、他の予定と競合したときに必ず譲る側に回ります。もう一つ、毎回違う時間帯だと、着手までの準備をそのつどやり直すことになり、枠の実質が短くなります。1時間の枠でも、場所を確保して教材を開くまでに15分かかるなら、使えるのは45分です。

記録を見返すときは、合計時間ではなく次の3つを探します。

  • 平日のうち、3日以上で同じ時間帯が空いている場所
  • 週末で、前後の予定に挟まれていない連続した枠
  • 空いてはいないが、中身が変動である時間帯。移す候補になるのはここです

見つかった枠には、いつまで維持できそうかも書き添えます。子どもが起きる前の時間帯や、特定の曜日の在宅勤務に依存した枠は、生活や勤務形態の変化で消えます。半年かかる学習を前提にするなら、半年後にも残っている見込みの枠を主軸に置き、消えやすい枠は補助に回します。

3つ目の候補が一つも見つからない場合、記録した1週間が繁忙期にあたっていた可能性があります。その週の在庫は平常時の在庫ではないので、落ち着いた週にもう1周だけ記録してください。

削る順番は、出てくる量ではなく反動の小ささで決めます

移す先が決まったら、何を削るかを決めます。ここで量の多いものから削ると続きません。判断に使うのは、削ったときに戻ってくる圧力の強さです。

削る候補 出てくる時間の性質 削ったときの反動 どのくらい続けられるか
惰性で見ている時間 細切れだが毎日ある。合計では大きい ほとんどない。ただし疲れている日は戻りやすい 長く続く。置き換えとして最も安定する
家事の頻度と方法 まとまった時間が出る 手間が家族に移る場合がある 方法を変えたなら続く。回数を意志で減らすと戻る
通勤時間の使い方 毎日あるが、できる作業の種類が限られる ほぼない 続く。座れるかどうかで使い道が変わる
仕事の持ち帰り 量は大きいが、自分だけでは決めきれない 期日のあるものは翌日に跳ね返る 短期だけ。恒常的な持ち帰りは学習以前の問題
交友や趣味 まとまった時間が出る 相手のいる予定は関係のほうに影響が出る 数か月まで。終わりを伝えられるなら成立する
睡眠 すぐ出る 数週間で集中力と体調に出る 続かない。前借りとして扱う
家族と過ごす時間 すぐ出るが、合意なく削ると別の問題になる 学習そのものへの反対に変わることがある 合意がある期間だけ

上の3つは、削っても生活の他の部分が壊れません。下の2つは、量としては大きいものの、返済が必要な借入と同じ扱いになります。学習期間が3か月を超えるなら、この2つを供給源に数えないでください。数えた計画は、数字の上では成立していても実行されません。

「削れるものが何もない」という結論になった場合は、記録の粒度を疑ってください。1時間単位で書くと、細切れの変動が「家事」や「休憩」に丸められて消えます。消えた分がそのまま、見つからない在庫です。

同居する人がいる時間は、交渉ではなく交換でしか動きません

家族と暮らしている場合、学習時間の確保は自分だけで完結しません。夜の2時間を学習に使うということは、その2時間に発生していた家事や育児を誰かが引き受けるということです。ここを伝えずに始めると、続かないだけでなく、学習そのものが家庭内で「勝手に始めたこと」として扱われます。そうなると、忙しくなった週に真っ先に削られるのが学習になります。

伝え方には形があります。

  • 期間を先に言う。「しばらく」ではなく「今週から3か月」のように終わりを示します。終わりの見えない負担は合意されにくいものです
  • 交換するものを出す。平日の夜を使うなら、土曜の午前は自分が担当する、といった具体的な引き受けを先に提示します
  • 成果ではなく行動を約束する。「資格を取る」は達成できるか分かりませんが、「週3回、22時から23時半を使う」は守ったかどうかがその場で分かります。守れた事実が次の期間の交渉材料になります
  • やめる条件も一緒に決める。3か月続けて生活が回らないなら見直す、と先に言っておくと、途中で相談を持ち出しやすくなります

同居する人がいない場合でも、この形は職場に対して使えます。定時で上がる曜日を一つ決めて周囲に伝えておくと、その曜日の枠は他の予定に食われにくくなります。誰にも言っていない予定は、他人の予定に勝てません。

それでも足りないときは、削る以外に3つの調整があります

在庫を測り、削る先を決めても、必要量に届かないことがあります。その場合に取れる手は3つです。どれも根性の話ではなく、配分の変更です。

期間を伸ばす。 週に出せる時間が想定の半分なら、同じ内容に2倍の期間をかけます。受講期間が固定されている講座では、この調整ができるかどうかが選択の条件になります。延長や一時停止の可否は、契約の前に確認する項目です。

範囲を狭める。 学ぶ対象を減らすと、必要量そのものが下がります。何を捨てるかを決めるには到達点が要ります。到達点が「業務で使えるようになる」のままでは範囲が決まらないので、捨てる判断もできません。

学習を業務の中に寄せる。 学ぶ対象を担当業務で使うものに寄せると、練習の一部が勤務時間の中で発生します。これは供給そのものを増やせる数少ない方法で、削る対象を探すより効きます。適用先の見つけ方は学んだことを仕事に持ち込む方法で扱っています。

3つとも取れないなら、開始時期のほうを動かします。繁忙期に重ねて始めて最初の1か月で止まるより、条件が整う月まで待つほうが、結果として早く終わります。開始時期の決め方と、受講が止まりやすい時点の見分け方は受講を最後まで続けるために、申し込む前に決めておくことにまとめています。

講座を使う場合は、形式によって稼働の出方が変わることも見込んでおきます。締切が外から来る形式では、週に出せる時間が少ない人ほど負担が締切の直前に寄ります。実測値が小さいほど、締切の間隔が短い形式のほうが破綻しにくくなります。

形式の違いを候補の絞り込みに使うには、実測値を候補ごとに答えの割れる質問へ変換する作業が要ります。その変換の手順と、候補を横並びにする評価シートの組み方はオンラインスクールを比較するときの判断基準で扱っています。

次の1週間でやること

  1. 7日間、何に時間を使ったかだけを15分単位で記録します。この週は学習を始めなくて構いません
  2. 記録を固定・変動・空白に仕分け、空白の合計と、毎週同じ位置にある枠を書き出します
  3. 学ぶ対象に必要な週あたりの時間を置き、2との差を数字で出します
  4. 差を埋める候補を、反動の小さいものから順に選びます。睡眠と家族の時間は候補に入れません
  5. 同居する人がいるなら、期間・交換するもの・やめる条件の3つを伝えます

ここで出た「週に出せる時間」が、講座を選ぶときの足切りになります。この数字を持たずに申し込むと、期間の設定も形式の選択も、根拠のないところで決めることになります。逆に数字さえあれば、条件を満たさない選択肢はその場で外れます。

よくある詰まりどころ

記録をつけること自体が続かない

7日で終わる作業なので、精度は落として構いません。書けなかった日は「不明」と書いて次に進みます。1日分が欠けても、毎週同じ位置にある枠は見つかります。完璧な記録を目指して3日で止まるほうが、判断材料としては損になります。

早起きは本当に駄目なのか

夜の側を実際に短くできているなら成立します。就寝時刻を早める見込みがないまま起床時刻だけを前に出す形が続かない、という話です。判定は2週間で付きます。起きられているか、日中に眠気で作業が落ちていないか。この2つが保てているなら、そのまま主軸にしてください。

繁忙期には在庫がゼロになる

ゼロになる期間があること自体は問題ではありません。問題は、その期間を計画に入れていないことです。繁忙期がいつ来るかは分かっているはずなので、その月は学習量を落とす前提で置きます。ゼロの月を先に織り込んでおくと、下がったときに「また止まった」と感じずに済みます。

週に出せる時間が想定より少なくて、始める気がなくなった

数字が出たこと自体は前進です。週3時間しか出せないと分かったなら、3時間で回る範囲まで対象を狭めるという判断ができます。時間が足りないから諦めるのではなく、範囲のほうを合わせてください。何を学ぶかがまだ固まっていない段階なら、学ぶ対象をいまの仕事との距離で決める順番に戻ったほうが早く進みます。